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虎目石 tiger eye
あの木の実を取ってこいと 誰かが背中を押したけど 大きく手を伸ばして ぼくにはもちろん届かないから ぼくは木から落下して そのまま 落ち続けて 金輪の際にぶつかって 痛みと熱い涙だけが 塩辛く頬をつたい いつまでも泣いてたって 仕方がないから ぼくは 這いつくばって 目の前の道をゆくと これを人は 夢というのか? これを人は 幸運だというのか?
6月23日読了時間: 1分
フローライト Fluorite
昼下がり 真夏の青い空の光 モンシロチョウ 窓辺に腰掛けてひとやすみするプロフェッサー 薄暗い研究室 本棚ごと日焼けして薄黄色い書物たち 煤けて折れ曲がったブラインドに羽虫がとまる 節電だとかなんだとか、阿呆らしい おかげでここは納屋のようだ 土産物 造りの立派な海外製の化粧箱から 花びらのように薄い ラベンダーの練り込まれたホワイトチョコレートを1枚取り出して齧る 窓の外 自転車のベルを鳴らしながら 畔道を走ってゆく子どもたち 新聞の上にあるプラスチックのうちわ 「こんだけ暑いとなにもやりたくないね。」 茶色い染みが幾重にも層をなす大きな白いマグカップに 三時間前のぬるい作り置きコーヒーが注がれる "つめたいミントティーなんかだったら、洒落てていいのにねえ。" しかしここにはこれしかない そして戸をたたく音 「はい、どうぞ。」 見知った声 「教授、これから気分転換にお散歩でもどうでしょう。」 「こんな天気だから行きたいけどね、こう見えて今週は立て込んでいてね。」 「おさそいありがとう。」 紙の山 ひとやすみが終われば この空がラベンダー色になる
6月16日読了時間: 1分
あたたかい かぜのつよい くもりの日のモノローグ A monologue on a warm, windy, cloudy day
きりっとしていた きみのこころは意外とぐしゃぐしゃ。 誤解されないように 説明的になる人々の立て看板。 そこに神秘はあんま、ない。 話題の尽きない 過呼吸な夜に 昼間あんなに励ましていたぼくが なにいってたのかすら まったく覚えてないだろう。 そうだろう。 きみのあたまのなかのぼくは ずいぶんと理想化されていて 見るに堪えない ほんもののぼくはいま サンドイッチをぼろぼろこぼしながら シャツの袖で口を拭いている。 自分の大人になれなかった部分というのが お荷物じゃなけりゃなあ。
6月9日読了時間: 1分
遥かなる朝 A morning that transcends time
朝焼けのピンク 山々のグリーン ガラスの器に入った青二才と オニオンスープ お皿に乗った焼きたてのパン 時計の秒針 はしゃぐ鳥達の声 向かいの席に座っているひとはいないけど たしかに 誰かと一緒に朝食をとっている やっぱりいいよ、やっぱり落ち着く そう独りごとを言って スイッチを押したり、頁をめくったりするとき ああ、やっぱり君か 今日のグリーンも 良いグリーンだね
5月31日読了時間: 1分
ほろ苦週間 a bittersweet week
月曜日は月の下でコーヒーをのむ 火曜日は砂漠でコーヒーをのむ 水曜日は空を眺めながらコーヒーをのむ 木曜日は木陰でコーヒーをのむ 金曜日は花のたくさん咲く場所でコーヒーをのむ 土曜日は街のどこかでコーヒーをのむ 日曜日は眠る こんな甘美な一週間を夢見て 狭い箱の中で忙しなく日々は過ぎてゆく 淹れたてのコーヒーが冷め切ってから 一息つくような時もある must と have toに挟まれて いつのまにか身動きがとれなくなって そんなとき "且座喫茶" Let's take a little rest. と、にっこり誘う珈琲の香りには 不思議なものを感じる そうやって 駅の一角のパン屋さんとかに 吸い込まれるように入っていって 熱々のブラックコーヒーを啜りながら 置いてある新聞を適当に読む しばらく経ってから店を出て そのあとは 浦島太郎になったみたいに あっという間に 一週間終わってしまう
5月4日読了時間: 1分
雨の日はなにもできない Give up on being busy on rainy days
雨の日は 暗く、寒く、 コーヒーの湯気が 天井まで昇ってゆく。 今日は考えるのをやめて、 小さな蛍光灯の下で 音楽でもかけて 静かにしていよう。 15年前のこんな日 黄色いウレタンがはみ出した 冷たい茶色いベンチソファの上で バスが来るのを待っていた。 単三電池のポケットオーディオで聞いていた曲を 久しぶりに聞いてみる。 10年前のこんな日 カーオディオにCDを詰め込んで あてもなく遠出した。 喉が渇いたら SAに寄って熱々のコーヒーを飲んだ。 5年前のこんな日 あらゆる喧騒に耐えかねて シアターに引きこもった。 帰り際まで ずっと余韻を残していた あのエンディングを 久しぶりに聞いてみる。 思い出は 雨音の向こう側 この先もきっと ただ、ぼーっとする時間が必要だ。 雨の日はなにもしない。
4月27日読了時間: 1分
曇天に花の散りゆく Flowers fall on a overcast
きみが虚ろな目でぼんやり空を見ているとき、 なんと声をかけたらよいだろう。 なんと、声をかけても、仕方がない ような気もした。 そんなことを考えていたら、 目の前を通り過ぎてゆく 黒い電線 烏のはばたき 田園の風景 枯れ草の一本 景色のすべてが静止してしまった。 白と灰色だけの空 その下方に見えた雲。 " なんかあの辺だけ雲が変だね。 " 指を指した。 独り言のようだった。 紙に擦った墨の跡みたいな細長い雲。 この空とおんなじ色したイヤホンつけて 貝殻みたいに目を閉じたきみは、 今日は何処かへ出かけているのだろう。 | ひと眠りしてきみは戻ってきた。 灰色は過ぎ去り 風に押されてかたちを変えてゆく 雲と雲の間をすり抜けながら 陽光が差し込みはじめる。 丘の向こうには 桜と見紛う満開の白梅が 風に吹かれながら花を散らしていた。 "春は再生の季節なんだ。"
4月5日読了時間: 1分
或る日の切れ端 The piece of the day
春は弱火でじっくりと煮詰めているキャラメルのように、しばらくは明るさを残したままで、ゆったり、ゆったりと暮れてゆく。 外靴を脱いで、のそのそと台所へ向かい、水道からその辺のグラスに半分くらいの水を注ぎ、食パンを一切れ皿にのせ、やっと腰を下ろした瞬間に、身体じゅうの疲れが鉢植えの底から溢れ出てきた水のように流れ出す。 (さっきよりも日が暮れてきたなあ。) 食パンを手に取って焼かずにそのまま一囓りすると、少し酸味のある、強い酵母の味がじんわりと広がった。 (パンはいきものなんだよなあ。) "ちゃんと、トースターで焼いて、少し煮詰めすぎたくらいのブラックカラントのジャムをスプレッドして、クリームチーズを大きめのスプーンひとすくい乗せようか" "チーズをたっぷりのせて、少し端を焦がしたチーズトーストにしてもいい" "ベーコンのオイルがたっぷり滲んだ玉ねぎのスープに浸してもいいなあ…" 食べ終わるまでひとり、あらゆる心象に耽った。 そして そのまますぐさま眠りこんでしまった。
3月30日読了時間: 1分
モリオン morion quartz
わたしの目は黒いので 辺り一面の流れゆく景色がどれもきらきらと輝いて映りこんでいた。 太陽の光が透けて茶褐色に見えたら、モリオンというよりはただの煙水晶(smoky quartz)のようだ。 「鞄が開きっぱなしですよ。」 「また紐がとれていますよ。」 「あ、ほんとだ。教えていただきありがとうございます。」 外側というものはよく映す鏡。 だから、なにかに気づかされてから居住まいを正すのにそう時間はかからない。 すくなくとも 花が咲いたら咲いたと判るし、 雛がいなくなれば皆巣立ったと判る。 壁にぶつかれば痛い。 しかし、"心" というものはどうだろうか。 外側からは決して見ることのできない、自分の内にあるものは。 そこに、たとえ何かがきらきらと芽生えていたとしても、不可視ということは、それが成長しはじめたのか、枯れてしまったのか、判別がつけられないということ。 身体はすっかり成長しても、 心の中はずっとあたたかい卵の殻の中にあるかもしれない。 もしくは すでに飛び立ってそこは空なのかもしれない。 なにかわかった気になれたとしても 結局は見えないし、わ
3月18日読了時間: 3分
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