top of page
  • Instagram

或る日の切れ端 The piece of the day

3月30日
読了時間: 1分

更新日:4月20日


春は弱火でじっくりと煮詰めているキャラメルのように、しばらくは明るさを残したままで、ゆったり、ゆったりと暮れてゆく。


外靴を脱いで、のそのそと台所へ向かい、水道からその辺のグラスに半分くらいの水を注ぎ、食パンを一切れ皿にのせ、やっと腰を下ろした瞬間に、身体じゅうの疲れが鉢植えの底から溢れ出てきた水のように流れ出す。


(さっきよりも日が暮れてきたなあ。)


食パンを手に取って焼かずにそのまま一囓りすると、少し酸味のある、強い酵母の味がじんわりと広がった。


(パンはいきものなんだよなあ。)


"ちゃんと、トースターで焼いて、少し煮詰めすぎたくらいのブラックカラントのジャムをスプレッドして、クリームチーズを大きめのスプーンひとすくい乗せようか"


"チーズをたっぷりのせて、少し端を焦がしたチーズトーストにしてもいい"


"ベーコンのオイルがたっぷり滲んだ玉ねぎのスープに浸してもいいなあ…"




食べ終わるまでひとり、あらゆる心象に耽った。


そして


そのまますぐさま眠りこんでしまった。

最新記事

すべて表示
透明な問題集 Transparent workbook

「道半ばの問題なんて問題ではないよ。」 一旦ペンを置いて彼は答えた。 コーラの入った紙コップはたっぷりと水滴を纏って、白いペーパーナプキンに円を描き出していた。 「ひとつの問題を解き終わって、はじめてその問いは全貌を現す。」 「そ、じゃあ僕の前には何の問題もないってわけ。」 「どんなに分厚かろうが、開かなければそれは透明な問題集にすぎない。」 「確かに、まあ、そうだとも。」 よれた紺色の鞄を持ち、

 
 
未来へ to the future

"よかったらこちらを飲んでみてください。" "なんですかこれは。" 唐突に、ショットグラスのような小さな黒い器に入った液体を手渡されて 揺らしながら匂いを嗅いでみる。 コーヒー、ではない。 お酒、でもない。 そこまで目立った香りという香りもなく "なんですかこれは。" おそるおそる口にしてみると うっすら鉄のような風味に 少しだけ まろやかな甘さも感じた気がする "これは一体なんなのですか。" "

 
 
迷い家 Mayoiga

あなたのおかげで いやいや、それはあなたの力よ そんなそんな いやいや‥ と 押し合いへし合いにつかれて ため息も溢さずに 細ばむ目の跡 頭に残るから やめてくれ。 この世でわたしのことを解っているのは たったの私、ひとりだけ。 そう決めつけてしまいそうなほど 塞ぎ込んでいるときに 手招きをする 狭き通路はあって、 朝でも夜でも変わりばえのない薄暗さで 粉々になったガラス片に生息する苔と 湿ったコ

 
 
bottom of page