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モリオン morion quartz

3月18日
読了時間: 3分

更新日:4月28日


わたしの目は黒いので

辺り一面の流れゆく景色がどれもきらきらと輝いて映りこんでいた。


太陽の光が透けて茶褐色に見えたら、モリオンというよりはただの煙水晶(smoky quartz)のようだ。


「鞄が開きっぱなしですよ。」


「また紐がとれていますよ。」


「あ、ほんとだ。教えていただきありがとうございます。」


外側というものはよく映す鏡。


だから、なにかに気づかされてから居住まいを正すのにそう時間はかからない。


すくなくとも


花が咲いたら咲いたと判るし、


雛がいなくなれば皆巣立ったと判る。


壁にぶつかれば痛い。



しかし、"心" というものはどうだろうか。


外側からは決して見ることのできない、自分の内にあるものは。



そこに、たとえ何かがきらきらと芽生えていたとしても、不可視ということは、それが成長しはじめたのか、枯れてしまったのか、判別がつけられないということ。


身体はすっかり成長しても、


心の中はずっとあたたかい卵の殻の中にあるかもしれない。


もしくは


すでに飛び立ってそこは空なのかもしれない。



なにかわかった気になれたとしても


結局は見えないし、わからない。


わからないものは、


どうすればいいかわからないから、とりあえず他を見る。


"どうせ、無理だ "

"こんなものは、ここには必要ない "


といって、自分の抱えている何かをえいと投げ捨て身軽になり


" ああ清々した "


と喜ぶ人があるときは、


それを見ていたもののうち、何人かは、

いとも簡単に自分の抱えていた何かを、同じようにえいと投げ捨てていた。


" ああ、清々した ! "


それらは仮にも、もし、捨ててはいけないと判ったときには、自分の投げたところまで自分で取りに行かないと戻ってこないだろう。


放棄 - 時間は距離だけを延ばしていく。


"こんなのわたしじゃない "

"これが、ほんとうのわたしです "


"わたしの本気の力をみせてあげよう "

"わたしの想いは誰にも奪えない "


といって、自分の抱えている何かを頑なに、ぎっちりと握りしめすぎて、ぱりんと壊してしまった人が、あっけからん表情で粉々になった何かを指差し、


"わ、わたしは解き放たれて新しい形になった"


と言う様子を見ていたもののうち、何人かは、同じように抱えていた何かをぎゅっと強く握りしめながら、


"早くわたしも新しいわたしになれますように "


と祈っていた。


粉々に散らかったそれらはもとのかたちには戻らないだろうし、戻す必要があるならば破片を一つ残らず拾い集めて、遺跡から見つかった土器のように、丁寧に、接着しなければならないだろう。


変形・歪み -

記憶と固執は破片を遠くへ押し流していく。



見渡すと、無知というものは一種の愚かさと、それに付随する虚しさを次々と明らかにしていった。


"これじゃあ…"


どこにも、どこにも、あてはなさそうだ。


わたしはその抱えている何かをどうしようもなくそっとポケットにしまった。


"これでとりあえず両手は身軽だ。"



あらゆるなにかに急かされて、


"はやくなんとかならないものか "


という焦燥が、火力だけをこうこうと上昇させ続けたのち、もくもくと黒煙が立ち上り、辺り一帯はたちまちモリオンのようになってゆく。


見えないものは、見えない。


よけい、見えない。


だから


黒煙から抜け出して、なにかが見えるときには、よく見て、考えたり、問いかけ続けないといけない気がした。


モリオンはどきどき月光にあてると良いそう。








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